挫・人間 blog


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フグオ

皆さんは「浦安鉄筋家族」というシリーズもののギャグ漫画に登場する「フグオ」という少年のことをご存知だろうか。
どう考えてもやりすぎだろってレベルのあからさまなデブキャラで、巻頭の人物紹介にも「デブ…デブ…デブ…!!」などとあり得ない紹介のされ方をした人物なのだ。
主人公の小鉄を始め、その同級生のフグオも小学生なのだけれど、小学生にもわかるような肉体派のギャグで人気を博した漫画で、フグオは基本的に暴走する食欲で笑いをとる「ありえねーデブ」って感じのキャラクターだった。
フグオはとにかくデブで、浦安市が雪に埋れたときも雪のうまさに気付き、雪を全部食べて浦安市を救うエピソードがあるほど、食い意地が張っている。

僕は小学生のころ、この浦安鉄筋家族を読むとき、小鉄の目線でこの漫画を読んでいた。
小鉄とは活発な男の子で、坊主頭の、やんちゃな小学生である。基本的に。
んでやっぱり主人公なので、小鉄の目線からみるとフグオは、デブおもしれーなのである。圧倒的な食欲。一目でわかるデブキャラ。でもクラスに一人はこういうやつがいるもので、運動会の徒競走ではいつもドベで、なんというか鈍臭い、モテなさそうな、食ってばかりいるやつ。
僕はもれなくこのポジションを光の速さで確保し、不動のものとしてしまった。
しかし、気付いていなかったのだ。自分がデブだとわかっているものの、こう思っていた。フグオみたいに死ぬほど食べたりしないし、言うほどデブじゃない、と。デブである。

僕は運動会のとき、気付いたのだ。
そう、まさに徒競走のとき、まだまだ暑い時期で、無意味に汗だくになりながら全校生徒保護者親戚方の前に、僕らの学年が門から勇ましい曲と共に行進してくる。
その中で一際輝くデブがこのおれだ。
そのころは人生のピーク時のデブだからしゃがむのもつらいので、地面に座り込み出番を待つ。僕は憂鬱だった。ドベじゃないことがなかったからだ。
「これから全校生徒保護者親戚の方々の前でおれは恥をかくのだ」
僕はこの小規模な社会のシステムと、それに順応していけない自分を呪った。それと同時に僕より速く走る奴らをその十倍くらい呪った。全員足腐れと思った。
「位置について、ヨーイ、」

この言葉を聞くと今でも冷や汗が出る。恐ろしい、呪いの言葉だ。呪われている。おれはこの言葉に。聞くだけでつらいからだ。これが呪いではなくてなんだと言うんだ。
僕は走りだした。なんか漫画で読んだような走り方で、せめて少しでも速く走るんだと思った。
僕のつま先が地面を蹴る。自分の持てる全ての力を振り絞り足を動かす。それでも前のやつとの距離は埋まらない、開いていく距離。開けば開くほど、周りが見える。皆が僕をみている。皆が僕を笑っているはずだ。

そのとき僕は身体が空中に浮いた。情けないくらい、転ぶときもゆっくり転んだ。
このまま、立ち上がる前に世界が終わればいいんだと思った。
しかし現実はそううまくもいかず、立ち上がり、白線までは走るしかないのだ。
僕は立ち上がる。
「ヨーイ、ドン」
惨過ぎる。時間の関係である程度ゴールしたら次の走者に走らせねばならなくて、まだゴールしてない僕の後ろから、鬼のような形相でクラスメイトが走ってくる。
哀れだ。どうしてこんな酷い目にあわなきゃいけないんだろうか、と考えている暇はなかった。今は一刻も早く後ろから来る奴らから逃げなければ。

「下川くん、立ち上がりました。がんばってください」

放送委員が感情もなく言う。

「下川くん、がんばってください」

うるさいよ

「下川くん、がんばっています」
「下川、がんばれえ」
「はやいはやい」
「あとすこし、あとすこし」
「下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。下川くん、がんばってください。」

おれはそこでよーーーやく気付いた。いくらなんでも遅過ぎた。全校生徒保護者親戚の方々、というか両親や妹のみている前で、おれはフグオのように「デブキャラ」を求められているんだ!デブが転んだらうれしいぜ。デブがちゃんと転んだデブ。だから応援するデブよ!転んだデブを応援するのは楽しいぜ。デブ、おなかゆらして走っちゃって、かわいいなあ。

楽しいだろう、だっておまえら、デブじゃないんだもんな。おれだってフグオのこと笑ってたとも。だって自分が皆からみたらフグオだなんて気づけなかったんだよ。
僕は後ろから来た走者に追い抜かれて、ダントツドベでゴールした。
先にゴールしてた奴らはみんなもう自分の順位のところに集まっている。
下川よくがんばったな。(デブなのに)
下川ドンマイ!
おれは赤ん坊か。惨めだ。
ドベのところの旗の元に座り込んで、僕は言った。

「早くアイス食べたいキャプー」
と、満面の笑みで、
すると皆笑ってくれたし、僕も悪い気は不思議としなかったよ。

誰だって小鉄みたいに主人公として存在したくて、みんなそういうつもりでいるけれど、全員が小鉄だなんてあり得ないんだ。
小鉄がひとりいたら、フグオだって絶対にそこにいるんだ。
僕はたまたま、フグオだったんだ。ハズレくじをひいたみたいだった。
自分の人生が、ハズレくじだったのだと気付いた瞬間だった。
下川くん、がんばってください。フグオのままで。君がちゃんとフグオしてたら、ちゃんとデブキャラとしても、生きていけるよ。
でも、それは嫌じゃないか。なんでおれは小鉄じゃないんだ。女の子に好かれたいとか、そういうスタート地点にも立てないのか。デブキャラのままで、でも下川くんはそれでいいよー。だって下川くん変わっちゃったら嫌だもん。おまえはどういうつもりでそんなことを言うんだ。都合がいいよなデブで。フグオ枠はおれがいるから、ちょっとやそっとじゃデブキャラにはならないよな。くそっ、全員呪ってやる。カッターで切ってやる。くそくそくそくそ。

という怒りに満ち溢れていた小学生時代を、フグオをみると思い出すのです。たぶんフグオは、僕と同い年くらいになったら、デブだけど、プーさんとか言われるちょっとやんちゃな感じで、なんだかんだで彼女とかもできるんだ。何故ならデブキャラとして生きて、デブキャラの持ち味を活かして生きていくだろうから。僕はそれが嫌で、できなくて中途半端に抵抗したりしたから、なんかよくわからないままの大人になってしまった。昔よりは確かにかなり痩せたけれど、フグオをみるといつも思い出すのです。
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